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映画『100,000年後の安全』を観て

Posted on 2011-07-08

フクシマ後の世界において、
この映画は、製作当初とは異なる見方がされているでしょう。

いまの私たち日本人にとって、
放射能とはどういうものなのか?その危険性は?
という疑問にあふれています。

しかし、その疑問に対して
この映画は答えません。

放射能や原発より、
時間と人間をテーマにしています。

これは、世界で最初に作られる高レベル放射性廃棄物の最終処分場の話です。最終的な保管場所はいままで作られてこなかったそうです。

最終というのは、
映画の題名にあるように、100,000年後まで保管することです。
それが、この施設の任務です。

我々が持つ放射能廃棄物に対する関心は、
この映画の中では、小さな問題なのです。

なぜなら、放射能の問題よりも、
100,000年後の世界を考えることの方が
困難だと思えるからです。

私は、100,000年後の世界を考えたことなんか、ありません。
また、100,000年後まで保つ建築物なんて考えたこともないし、
そんなことは不可能だとも思います。

しかし、100,000年後を考えることは、
歴史の産物へ新しい視線を与えることになります。

私たちは、ピラミッドといった世界中にある遺跡のすべてを
理解することはできていません。

そんな「いまの私たち」を、
「100,000年後の私たち」と仮定していかなければいけません。

つまり、最も恐れるべき者は、
放射能という物質的なものではなくて、人間だということです。

そこには、人類や文明の断絶により、
いまの言語が通じない人間や退化した原始人さえ
想定しています。
文字では通じない可能性があるため、
石碑に絵を描くという構想まで練られています。

「歴史の産物へ新しい視線」と言いましたが、
まさに、その構造物は客観的に見ると、
宗教的な建築物となんら変わりません。

最終処分場は、「オンカロ」という名があり、
フィンランド語で「洞窟」という意味です。

人工的な洞窟は、爆破により掘削をしていきます。
洞窟の壁面に、掘削のために技術的な文字や絵は、
ラスコーの洞窟壁画のように、
未来の人々はうけとめるかもしれません。

新しい人間は、古い人間のものを
どんどんこじ開けてきた事実もあります。

重き門に閉ざされ、地中深くに眠るものは、
私に2つのものを連想させました。

(1)インディージョンズにでてくる「宝物」
(2)ロールプレイングゲームにでてくる「悪魔」

放射性廃棄物は、
ある意味「宝物」「悪魔」のどちらにもあてはまります。

銅、プルトニウム、ウランを含んでいるわけですから、
資源でもあります。
生き物に害を与えるわけですから、
危険で忌み嫌われるものでもあります。

ロールプレイングゲームでは、
強い敵に負けると、レベルアップをしてから再度挑む行動を繰り返します。
人類もまた、新しい技術を携えて、100,000年が抱えるリスクを除去するために
何度も戦いを挑むのかもしれません。

そして、放射能の危険性やその施設の機能を
伝えていくことを考えると、
神話や伝説のことも思い出されます。
いかに語り継ぐかも、重要な問題になります。
そういった場合、たしかに物語は有効な手段になるでしょう。

いかに、人間を遠ざけるかは、
地震や津波といった自然現象以上に、
困難な問題かもしれません。

「宝物」や「悪魔」を例にあげましたが、
この映画では、100,000年後まで
人間から「ある物」を守る・遠ざけることの方が
重要な位置づけがされています。

したがって、
私たち日本人が知りたい放射能や原発への関心を満たしません。
結論からいうと、
放射性物質でなくてもよい話だと私は思います。

しかし、残念なことに、福島の原発事故とこの映画は結びつけられて語られていることです。残念というのは、監督の意図とは異なると思うからです。

映画『100,000年後の安全』パンフレットを手にしたのですが、
後半は、福島の原発事故、日本の原子力行政、「おカネ」と「モラル」の問題にすり替えられていることです。

監督の意図とは異なるし、
作品が利用されているような気がして仕方ありません。

この映画が撮られた時は、処理場を管理する企業に、ジャーナリスティックな姿勢をもたないことを前提に協力をえたそうです。つまり、その企業や処理場の批判になってしまうことを恐れるからです。そういった経緯から、非常に客観性のある映像になっているのに、このパンレットは残念でした。

また、原発事故と放射性廃棄物の処理とは、
別の問題としてとらえなければいけません。
ツイッターでは、
モンゴルに処理場を建設するというニュースに対して、
原発と同様な批判があります。

しかし、原発が作られてた半世紀前から
廃棄物の処理については、先送りにしてきた経緯があります。

原発を反対して、電気料金が高くなるのは、
自由な選択かもしれませんが、
すでにある廃棄物を処理することは、現代人の責任として、
未来にその決断の責任まで託してはいけないだろうと思います。

『100,000年後の安全』は、放射性廃棄物や原発という時事的なテーマを扱っているが、大きな時間の流れで見た人間をテーマとして不思議で深い映像作品です。

『100,000年後の安全』公式サイト

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